311〜Vol.15
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娘が学校に行きたくなるまで、本を読んでもらおうと、図書館に出向く。本来だと貸せないらしいのだが事情を説明し、身分証明書があれば借りてもいい事になった。数冊選ぶ。
この頃になると暖かくなってきた。服がない。三人の春物と眼鏡を買いに出る。
震災以降、メガネが売れるのだと店員が言う。避難者だと告げると驚かれた。今のところ、ここいらに来たのは、わたしたちだけなのかもしれない。
買い物は安いものから選んで買っていった。安いものしか、買うのが怖かった。手持ちの現金は大事に使わなければ、またどんな事態になるやもしれない。
従兄弟夫婦がクレープ屋さんで子どもたちにクレープを買っていた。当然娘も欲しがると思いきや、いらないと言う。「お金あるの?…」と。何でもわかるよね、そうだよね、ごめんね。「大丈夫だから、好きなの選びな」そう言ったら嬉しそうだった。この子が笑ってくれるなら。「たまに買ってやるから、また来ようね」そう言うと、笑った。
兄が、福島県の会津に移ったと連絡が入った。とりあえず遠くへ。F1からさらに離れてくれた事に安堵した。ただ会津だ。県内でも3月はまだまだ雪深い、寒い地域だ。312ですれ違った兄の服装はとても極寒の会津に耐えられるものでは無かった。ここでも、また心配してしまう。
夜、娘が震災当時の話をしてくれた。今まで経験のない揺れ。音。泣き叫ぶ子どもたち。泣く友だちを気遣い、祖母や叔母、両親は死んでしまったのではないかと幼いながらに心配した時間。
迎えに来た叔母の顔を見て、わんわん泣いたこと。
一度にたくさん感じることが襲ってきて、急に大人にならざるを得なかった。被災した子どもたちは皆、うちの子のようなのかと改めて涙が出た。だが、とにかく、わたしたちは生きている。こうして三人生きてここにいる。命さえあればやり直せる。またいつか、笑顔の日常が戻ってくるからと、祈りに似た言葉が夫の口から出た。
続