帰還
何年も避難生活をしてきて、ずっと自分というものをどこかへ置いてきた
いわゆる、当たり障りのない良い子となっていた
会社、子どもの学校
特に外部と接触した時、避難していると揶揄されないよう氣をつけた
望んで?違う
多くの差別を目に耳にしたから
県内でもそれはあった
妬み嫉み
自分を守る、愛する人を守る、その為に口を噤んだ
自分の出身地も言えない、出かければ国訛りも封印した
わたしはわたしの意志とは関係なく、幾度となく故郷を捨てざるを得なかったのだ
被災した人の中に、少なからずわたしと同じ感覚の人はいただろう
(お金持ってるんでしょう・・・反吐が出る)
長年そうした生活をしていると、当然無理が祟る
声が出なくなった
出づらさは何度となくあったが、ある日完全に出なくなった
噤む、口を禁じると書いて噤む
言葉を失うはずだ・・・そう、わたしがしたのだもの
「何をそんなに我慢しているの?」友人が聞いてきた
わたしは答えた
「故郷に帰りたい」
娘が高校を卒業するまではここにいよう、そう夫婦で決めていた
だが、友人のこの一言で、わたしはわたしに勝手に課した重荷と向き合った
もう、楽になってもいい
声を失って初めて、いわゆる(呪い)を解くことを己に許したのだ
その日のうちに、夫に話した
「帰りたい」
手術の日程が決まって、最悪この先出なくなることも覚悟したが、運よく日常会話に支障ないまでに回復した
退院してすぐ、帰還への準備を始めた